きっと最善な終わりの時C


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「聞いていいか?」
 夕菜は目線だけでどうぞという意思を伝えてくる。
「いくらなんでも、一緒に登校というのはどうだろうか」
「私だって恥ずかしいんだ。だが昨日に言っただろう。できるだけ一緒にいる方がいいって」
 薄川市、薄川町、ここは山の中に作られた町である。
 だれもが思い描く、田舎というものがある。そんな雰囲気そのままがそこに存在していた。
 あたりには田んぼや畑が目に付き、家はその時々にまばらに存在するような地域で絵ある。いまどき自給自足の生活というところもいるらしい。
 都会の人間には田舎にあこがれをもつものがいるが、その地方だけにある風習や風土があり、友也にとっては堅苦しい場所という印象がある。
 しかしそんな田舎にも携帯電話というものはあった。
 学校に向かっていると携帯に夕菜から電話がかかってきて、一緒に行くという約束させられたのだ。
 しかし、気になるのは一緒に行くというと何か変な雰囲気が出てしまうということだ。そういうことをするのは友也の中には付き合っているという誤解を受けるのではないのかということだ。田舎ではそういったゴシップはすぐに辺りに回る。
 自分としてはいまさらうわさに一つが加わったとしても、特に問題があるというわけではない、むしろ問題は彼女の方に問題がある。
「だから、この話はこれ以上なしだ、わかったか?」
 彼女はすごむ、そこには昨日並の殺気が込められている。もっとも恐怖自体はほとんど感じないものだが。
「だいたい、加奈にとってもあんたと仲良くしておけば、何かと都合がいいだろう」
 そういってそっぽを向く。
「でも、こうやって一緒に話していれば、本当に彼女の人格が戻ってくるのか?」
「わからない」
「わからないって―――案外、ものを考えていないな」
「っさい、とりあえずほかにいい案が浮かぶまでこうするって話だ」
 そういって歩き出す。
 昨日、あのことが思い出せれる。


 彼女はしばらくぎりぎりと襟を締め上げていた。
 それは長いとも短いともつかない時間の間。彼女はようやく口を開く。
「お前は後悔しているのか?」
「ああ、いまさら謝ってもどうにもならないかもしれないが」
 彼女はだんだんとその目からが抜けてきて、それに伴い、いままで放っていた威圧的な気配が薄れていく。
 と
 彼女は襟を放して、ナイフをしまった。
「……私は元々、お前を殺すつもりなんかない、あの子に謝させて、私の恨みを君に感じてくれればそれでいい」
 そして、離れていく。背中越しに言葉を放つ。
「お前を殺せば、あの子が悲しむからな」
 彼女は涙をごしごしと荒っぽく拭く。
「その代わり、お前に命令する」
「……命令?」
 オウム返しに彼は聞き返した。
「加奈をよみがえらせるのに協力しろ、お前に拒否権はない」
 彼女はそう、断定的に言い切った。そこには一切の余分なものはない。ただ純粋に事実としてそうであるという口調である。
「いや、拒否するつもりはない。だが、手伝いたいが、精神科の医者のところに診てもらった方が―――」
「医者はだめだ。私も彼女も嫌いだ。何より、今回はさらにだめ。何しろ加奈が殺したのは医者だったんだ。逆効果だ」
 彼女は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「……でもどうやればいいんだ? その出てこなくなった人格を引き出す。なんてことをするなんて」
「本当はこんなこといいたくない。私はあんたが大っ嫌いなんだから。もうこれしかないと思う」
 突然、友也には別の話になったような気がしたが、彼女の雰囲気から、関係がないというわけではないのだろうと判断する。
「だから、どうすればいいんだ?」
 一瞬、きつい視線を送るが、次にすぐに諦観がにじみ出る。
「……つまりは原因は君にあるわけだ。あの時、彼女は不可抗力とはいえ人を殺したしまった。その罪悪感のために、そして好きな人が助けてくれなかったということでさらに追い詰められた。ようするにそれと逆のことをすればいいわけだ」
「……つまりはどうすればいいんだ?」
 妙に遠回しにいう言葉に友也は彼女の言いたいことがまるでわからない。
 しかし、そのことにますます彼女は不機嫌になる。
「要するに、私と一緒にいろって意味だっ!」
 必要以上に彼女は声を大きくしていう。
「私だって嫌なんだぞっ」
「ああ、すまない。俺にも責任の一端がある。雪代を助けるには、そうするのが一番だろう」
 いつの間にか虫たちがまた騒ぎ出していた。
「で、一緒にいるってどういう意味だ?」
「お、おまえは―――っ!」
 彼女が怒った理由は友也にはわからなかった。


 そんなことがあり、今に至るというわけだった。
 しばらく会話が無くなり、お互い話すことがなくなってしまった。
 気まずいというわけではない。ただ話す事が無くなった。それだけである。
 実は既に時刻は遅刻気味なのだが、走るようなことはしない。それはいつものことである。よってあたりには学生の姿がない。
 遠くから鐘の音が聞こえる。一時間目が始まる鐘である。
「友也、走る気は無いだろう?」
 頷くと、だろうな、なら話でもするか。といって返す夕菜。
 彼女はまえから思っていたのだがな、と前置きをおいていう。
「なんで、そんな冷静なのだ、君は」
「お前もずいぶん冷静だとは思うがな」
「お前は私に殺されかけたんだ。そんな相手と談笑しながらよく登校できるなっていっているんだ」
「お前も俺のことを憎んでいるんだろう。なのによくこうやって話せるな」
 彼女はうっと一瞬言いよどむ。
「わ、私の場合は逆恨みだからだ。あんな電話をいつも会話もないような人からもらって、対応できるわけがない。それは理屈で言えば理解できるだが、やはり最後の一押しをしたのはあんたなわけだ。複雑だ。本当。しかも、その相手は私の一番の友達の好きな人なわけだしな」
 そう、一言で言い切ってため息をつく。
 彼女は道端にあった石を軽く蹴り飛ばす。それはころころと地面を転がって止まる。彼女は飛び方が気に入らなかったのか、わざわざ、それをもう一度蹴り飛ばす、それは弧をを描き茂みへと飛び込んでいった。
「本当は冷静じゃない。そう見えるだけ―――お前は? どうしてそんなに冷静なのよ。最初は慌てていた癖に」
「俺は―――なんだかな、死って意識すると、妙に冷静になるんだよな。死ってさ、身近すぎるんだよ、俺にとってはな」
「死にたいってことか?」
 彼女はあっさりとそういった。
 そのことに少々驚きを覚えつつも、友也はその問いに少々考えてから答える。
「……実際、人に殺されるって思ったらやっぱり死にたくはないって思うがな、やはり今は死にたいな」
「ふーん、死ぬのは困る。加奈が悲しむ」
「そうだな」
 鳥がさえずり温かい風が吹く。
 天気は良く、雲は無く、どこまでも晴れ渡っている。
「……ところで、話している内容はとても暗いのに、なんか、お互いにそんな雰囲気は微塵も感じないな」
「良いんじゃないか? 加奈はよく暗い話だって、楽しく話せば楽しく聞こえるものっていっていたぞ」
 彼女は微笑む。
 そういえば彼女が、夕菜が笑ったのは初めて見たような気がした。
 それも一瞬、彼女は真剣な面持ちで続ける。
「それで、何で死にたいんだ」
「何でかな、あんまり大した理由はないんだよ」
 友也は空を眺める。
「例えばさ、今日は天気が良いから、いい気分とかそういうことがあるだろう?」
「天気が悪かったら死にたいのか?」
「……そこまでは極端じゃないけどな、毎日の気分ってそういうもので決まってくるだろう? それは天気に限らず、いろいろなものが少しずつ働いてくるていう感じだろう。俺はその上下が酷いんだよ。それに俺はよく最初から感情がマイナスなんたよ。その性格上な。あとは何か悪いことがあればマイナスに落ちていく、なにより―――」
 心地よい風が駆けていく。
「俺には嫌いなものことが多すぎる。自分という存在を含めてな。でも多すぎて自分はそれを治すことも、避けることもできない。そしてさらに俺は自分が嫌いになる。そうやって無限に自分が嫌いなんだよ」
 彼女はこんな話を聞いて退屈なのではないのだろうか、
 最初は友也はそう思っていたが、予想外に彼女は真剣に聞いてくれていた。こんな鼻話を他人にしたのは始めてだった。
 だんだんと人生相談みたいになっているな。
 そう思い、友也は苦笑した。
「今はどうなんだ」
「んー、ゼロだな」
 気分は決して悪くない。
「プラスでもマイナスでもないってわけか、でもあんたの話を総合すると、だいたいマイナスなわけだろう。ってことは相対的にみたら、マイナスからゼロに上がった分の要因はなんかあるわけだ?」
 言われてみれば、彼女の言うとおりだ。そう思い、彼はその原因をたぐる。
「いや、心当たりはない」
「……まぁ、心の状態ってそんなもんかもね」
「―――お前、死体はどうしたんだ?」
「ん? 埋めといた―――あんた普通の人間とどっか違うな、真顔でそんなことよく言えるな、まぁ私もそうだが」
 彼女はまた石を蹴り飛ばす、今度はそれは道の側溝に落ちてしまう。
 彼女はそのことに少々むっとした顔を見せる。
「例えば、その死体の話しもそうだが、普通のやつは警察に連絡するとか、自首を勧めるとか一般の人間がすべきことってあるだろう。そういうのはないのか?」
 一瞬、友也はきょとんという顔をしてしまった。そんな発想は頭のどこにもなかったからだ。
 彼女の話では向こう方から襲ってきたという話である。だとすれば、自首とか警察に電話するのはお門違いのようにも思える。
 しかし、それは今、自分で考えた理由である。電話をしなかったのは純粋にそういった考えが浮かばなかったのだ。よって彼女の言うとおり、そういう手段をとろうと考えるのは一般的な思考だろう、しかし、それは思いつかなかったのだ。
「……どうせ、そんなことをしようとすれば、お前は俺を殺そうとするだろう?」
 これも今つけた理由である。自分はこんなことを思って警察に連絡したりしなかったのではない。
「そりゃそうだ。加奈のためなら何でもするけど、私がいいたいのは形だけでもそういったものが無いのが不思議だっていっているんだ」
 夕菜はどこかまるで怒るような口調である。
 それがどこか彼女が言うことではないのではという思いがあったが、それよりもすんなりと友也の口から出たのは―――
「……だって、約束したじゃないか、加奈を助けるって―――」
 突然、今度は夕菜の顔がきょとんという顔になる、そして一瞬のタイムラグのあとに不機嫌な顔になる。
「……そういえば、あれは約束じゃなくて命令だったか? まぁ、どちらにせよ俺はかなを助けるつもりだ。なんなら約束してもいい」
「あんた……いい男だ」
 唸るように低い声で彼女はそういった。
「どういう意味だ、そりゃ」
「そのままの意味、ああ約束しろ、お前が加奈を助けるってな」
 そんな他愛の無い―――というわけでもないが、そんな会話をして二人が学校へと歩いていった。
 

 何かが様子がおかしい。
 それはすぐにわかった。
 あまりにもどこのクラスも騒がしいからだった。
 ドアの窓から見ればその理由はすぐにわかった。先生が授業をやっていないのである。しかし、すでに一時間目を半ばまで過ぎており、一つだけならばわかるが、ほかのクラスもまとめて授業をやっていないのはおかしいのだ。
 クラスのドアを開ける。
 一瞬こちらに視線が集まる。それは友也と夕菜両方に向けられていたものだった。
クラスメイトたちはまるで、先生が入ってきたかのように一瞬静まりかえるが、すぐにすぐに元に戻る。
 あとは同じである。
「加奈ちゃんっ!」
「良かったぁ」
「あー、安心した」
 女生徒の数人が夕菜に駆け寄る。
「どうしたの、なんだか学校の様子がおかしい見たいだけど」
 夕菜は突然、さきほどと話していた口調よりも1オクターブ高い音と一段階フレンドリーな感じになった。
 つまりは雪代加奈を演じるためだろう。彼女は加奈を大切に思っている。だとしたら、夕菜が加奈の真似をするのは当然なのだ、彼女が戻ってきてもいつも通りの日常を送らせるには必要なこと。
 しかし友也にはそれが滑稽じみて見え、そしてなぜか同時に哀しいそう思えた。
 友也自身、それがなぜだかわからなかったが。
 加奈の友達たちは喜んでいたのだが、すぐに表情を曇らせる。
「この学校の生徒が数人いなくなっちゃったらしいの。恵ちゃんも、友ちゃんもいなくなっちゃって、携帯はつながらないし―――」
「ちょ、まって、いなくなったってどういうこと」
 夕菜は女生徒を制するようにいう。
「だから―――みんな休みの人の携帯にかけるんだけど、出ないし家にかければ、親もどこにいったかわからないって―――」
「いないって―――まさか行方不明か?」
「そ、そうかもしれない」
 友也に話しかけられ、その女生徒はあわてて返答する。
 確かに見渡してみれば、クラス内に空席がいくつかある。
「確認はしたのか?」
 友也が問うと、今度は別の女生徒がそれに答える。
「全員にかけたわけじゃないけど―――どこの家も似たようなものだって、中には親もいない人がいて、それに今日学校に来ている人の中にも親が家にいないって言っている人もいて―――」
「先生とかは何してるの?」
 夕菜は問うが彼女たちは首を横に振る。
「なんだか、一度だけこっちに来て待機してろとかいって出て行ったきり、それ以降なんか職員室で会議しているみたい―――それに内の担任もいないらしいのよ。多分、先生たちの中にもいない人がいるんじゃないみたい」
 最初の彼女はほとんど泣き始めていた。
「ねぇ、どうしよう、みんな、みんないなくなっちゃってる。おかしいよこんなの、その内みんないなくなっちゃうんじゃないかな……」
「大丈夫、そんなことないから」
「でも、でも―――」
 夕菜とその友達はその女生徒を必死になってなだめようとしているのだが、それにはあまり効果はみられない。
 クラスの中はいつもより、ざわついているのだが、その仲に悲壮な雰囲気が漂っているのが友也にも見て取ることができた。
 それからしばらくして先生がやってきた。
 先の女生徒のいうように担任ではなく、他の先生がやってきた。
 その先生の話によると、学校はとりあえずここまで。後は集団下校という形をとるらしい。
 この後、連絡網を通して明日のことを伝えるということが友也たちに告げられた。つまり、明日以降もどうなるかわからないということだ。

 
 

 

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