きっと最善な終わりの時F


 次    ぎゃらりーに戻る  TOPに戻る 

 

 

 

 


「いらっしゃいっ!」
 最初に声をかけられたのは少女のものだった。彼女は舌っ足らずな口調でうれしそうにそういった。
 年のころはまだ十代といったところである。どこか外国でも寒い地方の白い肌と金髪。その口調からどこか幼い印象を受けるのだが、それを包むスーツが似合っておらず、どこかアンバランスな印象を受ける。
 彼女はこちらの手をぎゅっと握り締めなぜか上下に振っている。
「さ、こっち座って。おいしいお菓子があるんだよ」
 その軽い言葉に思わず、友也は肩をこけさせた。
「やぁ、こちらはなんとかわいらしい女性じゃないか」
 そういって近づいてくる若い男性。
 こちらもスーツ姿である。背は高く、こちらも北欧系の金髪に白い肌。どこか軽い雰囲気をもっていて、その顔には人付きの良い笑みが浮かんでいる。
 僅かに鼻につく香水の香り、それは少々強い気がしたが、許容範囲内ではある。
 草薙の話では国と国をまたいで活動する公的機関だとかという話であった。もっといかついイメージがあった。事実、草薙もそういった雰囲気を持ち合わせていたため、その組織の拠点に行くと思って身がませていたのだ。
 しかし、その実態は妙に疲れを感じさせるものだった。
 連れて行かれたのはどこにでもある普通のビルである。
 この辺は薄川町でも駅前なので多少は賑わいを見せている。このビルもそういったものの中の一つだった。
 そのビルは5階だてだが、その最上階がその組織が使っている場所という話である。たの階のテナントも一応名前は入っているのだが、それはすべてダミーで、実際には活動はしていないという話だ。
 そしてドアを開ければ数人のなにか会議をしている人間たちがそこに待っていた。そして今に至る。
「今、お前たちに求めているのは人手だ」
 草薙の言葉に先ほど友也の手を握り締め上下にふっていた女性がお茶を入れながら、うなづく。
「そうそう、内って人手不足なんだよね、お茶くみ用にだけでもパートのおばさんでも雇ったらいいのにさ」
 ほほを膨らませて、ぶーぶーというその少女。
「……俺たちはお茶組みをするためにここまでつれてきたのか? というか、なんかイメージとだいぶ違うんだが―――」
 友也が半ば呆れつついう。
「どんなイメージ?」
 彼女は嬉々として問いかける。
「なんか―――あまり正規の組織じゃないっていうイメージだ」
 その言葉に彼女はあははと笑う。
「ええ、そのイメージは合ってるよ。問題はそこにいる人間の雰囲気が、ちょーっとばっかし違うのかもしれないけどね」
 そういってにっと笑った。
 友也の向こうの方では男と夕菜の会話が始まっている。
「お譲ちゃん、年はいくつだ? え? 高校生か、いいよな高校生は、なにしろ、そういったお店にいかなきゃ見る事ができないような制服姿の女の子がいっぱいいるんだもんな、まさに天国じゃないか」
「内の学校は私服がほとんどです」
 きっぱりと、そしてどことなく拒絶するような口調な夕菜。
 しかし、それに気付いているのかいないのかそういった。
「ぬぅ、でもやっぱり若さはいいよ、なによりぴちぴちしているからなぁ、あれだ女房とたたみは新しい方がいいって―――ありゃ、あれは多いほうがいいだったけかな、草薙さん?」
「お前は少し黙っていろ、話ができん」
 そのおしゃべりな男は聞いていないのか聞いているのか、とにかくそのおしゃべりは止まらない。
「でもさ、草薙さんは見た目どおりだが、あっちの今お茶をいれたやつ、あいつ見た目は十台だがとっくに―――」
「あはは、それ以上いうとおなかに風穴が開いちゃうよー」
 そういって手元には草薙のもっていた銃と似たようなものが握られていた。
「あはは、それは困るな。物を食べても全部もれちまって一向に腹が満たされなくなるのではないかという不安感に苛まれる」
「大丈夫。そのときは口から思いっきり鉛だまをプレゼントしてあげるから心配無用で、アフターケアーも万全、送料は自己負担でね」
 彼女はその物騒なものをしまった。
「そろそろいいか?」
「何? 草薙さん?」
 答えたのは少女のほうである。
「話をしてもいいかということだ」
 草薙が嘆息を最大にして出したという感を友也を受ける。
「まだ自己紹介をしてないから駄目ー」
 その少女はびしっと両手を交差させて×印を作る。
「……好きにしてくれ」
 そういって何かあきらめるような顔をみせ、草薙はソファーにもたれかかった。
 彼女は軽くお辞儀をして、
「私の名前はリゼル・シャウト」
「俺の名前はアイゼン・シャウト」
 男の方が続け、リゼルの肩に手を置いた。
「つまりは―――」
 友也はいいごもった。二人が夫婦なのか、それとも兄弟なのか純粋に判断に困ったからだ。
 髪の色や肌の色は似ている。しかし顔立ちがまるで似ていない。
 突然、リゼルがぎゅっと手を握り締めてくる。
「それ以上、言葉を続けないでね。私たちは兄弟だよ」
 そのリゼルの背後からは目には見えないオーラのようなものが見えたような気が友也にはした。
 友也はあわてて、握られた手から逃れた。つぶされるような気がしたからだ。
「似てないでしょ? だからそういう勘違いをされる方がときどきいて困っているんだよね。こんなろくでなしの兄、だれが好き好んで―――」
 そういってなぜかアイゼンの首を絞めつつ、ため息を吐くリゼル。
 おしゃべりなところは似ている、そう友也は思ったが、黙っているほうが得策であるなとも思った。
「で、今度こそいいか?」
 草薙が立ち上がる。
「ああ、どうぞ、草薙さん」
 アイゼンが答える。
「先ほどもいったが、内に欲しいのは人手だ」
「……お前は組織に属しているのでないのか? ならお前にも仲間がいるんじゃないか? 現にここにも―――」
「内は日本政府と対立していてな、うちの組織は日本国は認証してないんだ。日本国は自分でなんとかすると考えている。よって大人数で動くことはできない。日本が内を監視している間はな。俺はあくまでここに居合わせたゆえ、この事件に対応したという形でなければならないのだ」
 そういってかぶりを振る。
「それにこいつらは探索や情報収集の分野をやらせている。戦いということになったら戦えるのは俺ぐらいしかいないんだ、それに―――」
肩をすくませて、こう付け加えた。
「こいつらが戦いに役に立つと思うか?」
「あ、酷いなぁ、こんなに組織内の雰囲気を明るくすることに貢献しているのに、これは草薙さんにはできないでしょ?」
 アイゼンが笑っていうと、リゼルもまた、それに続いていう。
「草薙さん、確かに私はお茶しかできないよ。それ以外もする気はないからね」
 リゼルは胸を張る。
「なるほど……」
 その友也の答えがありありと伝わったのか草薙は嘆息する。
 同時に友也は草薙の人格に対して悪い印象しかもっていなかった。しかし、それが全てというわけではないという認識に変わっていた。
「日本側もこの問題を解決しようといろいろ手を回しているみたいだ。報道規制や、通行規制。お前たちは知らないだろうが、もうこの薄川町から外に出ることはできないようにされている」
「報道規制? 今日もニュースがあったが―――」
「確かに流れてはいる。だが、真相を流すということはないだろうな、日本側も異生物のことは否定しているんだ」
「では、お前はどこまでつかんでいるんだ?」
 友也の問いに草薙は沈痛な面持ちをみせ、
「……とりあえず、わかっているのはここに異生物が生まれていて、人が行方不明になっているということだ」
「もしかして、その異生物に殺されているのではないのでしょうか?」
 夕菜の問いに草薙は首を横に振る。
「だったら殺された人間の死体がないのはおかしい、消えてしまった人間は話を聞く限りではまるで煙のように消えてしまったということらしい」
 そういって、草薙は肩をすくませる。
「異生物が生まれ、そして人が消えてきている。これらの事件はほぼ同時に起こっている。関連性があるとみて間違いないだろう。だとすればどのようなものがあるだろうな」
 そういってニヤリと笑う。
「……あんたの口ぶりからすれば、なにか考えがあるのだろう? 以前も似たような異生物が現れるような事件もないのか? それと今回の事件と照らし合わせればなにかわかるんじゃないか?」
「異生物はほとんど解明されていなんだ。ただこの世界に害をなすもの。それだけは共通しているがな。まぁ、要するに今確認されている体系の中に存在しない体系とでもいうかな、俺たちは異体系と呼んでいる」
「異体系?」
 その言葉が意味がわからず友也は聞き返した。
 草薙は手を広げて、
「この世界の法則があるだろう。火はある程度の熱、実際に燃えるもの、そして酸素が必要だ。そういった細かい法則がある。そういったものを集めて体系と呼ぶ、世界ごとに体系は存在するが、倫理違反というのはこの世界と異なる体系が生まれたということなんだよ。つまりは―――」
 そういってニヤリと笑う。
「よくわからないことを排除しようというのが内の組織さ、排除しなければ、この世界の体系が塗り替えさせられるわけだ。この世界の体系が塗り替えさせられる。既存の全てが変わるというわけだ。実際に何が起こることやら」
 肩をすくめる。
「話がずれたな、つまりある程度今回の事件について何か考えがあるというが、確かにその通りだ。お前はなかなか頭がいいな」
 そういって、夕菜に顔を向ける。
「お前が殺したのは年と背格好を教えてくれ」
「……年は四十代、白衣を着ていたから医者だと思います」
「お前はその男に襲われたわけだ」
 そういって、ノートパソコンを取り出す。
「ここにこの町の行方不明者リストがある」
「私たちががんばって作ったんですよ」
「まぁ、あれだな。給料大目にしといてくださいよ」
 リゼルとアイゼンのことは無視をして草薙は話を続ける。
「この中に該当する人物が一人いる。おそらくこの人間で間違いないだろう」
 そうって画面を見せる。
 そこには写真と細かいその人間のプロフィールと思しきものがそこにあった。
 それはついこの前にテレビで失踪した人間である。
「そうです。間違いはないです」
 夕菜はそれを一目見てそうだといった。
「では、お前は襲われたといったが、相手はどんな感じだった?」
「……どんな感じだったとは―――」
「そいつの様子だよ、どんなことをいっていたとかな」
 そういってタバコに火をつけて大きく吐き出す。
「……言葉は無かったです。唸り声や、常軌を逸したとしか―――」
 ここで、夕菜の目がはっと見開かれた。
「さっき、あなたが殺した異生物にそっくりだったです」
「なるほどな」
 そういってファイルは閉じる。
「つまりはこういうことだ。行方不明者の中には怪物になって現れるということがあるらしい、俺が殺したやつも行方不明者だった」
「じゃあ、行方不明者の数十人が全部怪物に―――」
 夕菜が押し黙る。消えた中には加奈の友達もいる。
「そうなると決まっているわけではない。そうならないとも決まっているわけではない。要するにわからないということだ」
 タバコを吸って吐く。しかし、その様子はあまりおいしいものを吸っているという幹事ではない。
「でも私がナイフでさしてもその異生物は消えなかったです」
 草薙はちょっと考えるそぶりを見せて、
「それはおそらく、まだ完全に死んでいなかったということだろうな、土に埋めた後に死んだということだろう」
 彼はそのタバコを灰皿で消す。
「お前たちには力がある、それが犯人に目をつけられているんだ。だから最初に加奈を殺そうと、異生物が襲って生きたのだろう。おそらく友也お前も狙われている」
 そういって彼は友也たちに強い視線を向けた。
「お前たちはこれから、ある程度訓練を受けてもらう。あくまで必要最低限の訓練だ。ちゃんと報酬もでる」
「すずめの涙だけどな」
 アイゼンがすねるような口調でいう。
「お前たちはこの一連の事件の犯人に目をつけられている可能性が高い。なにしろ異生物を殺したわけだ。ここにいたほうがある程度安全だと思うし、力をつければより安全になるだろう」
 沈黙で答える友也、うつむく夕菜。
 それはもう決まっていた。
 もう既に巻き込まれていたのだ。
 逃げ出せないところまでである。

 

 

 

次    ぎゃらりーに戻る  TOPに戻る

 

投票ボタン

「きっと最善な終わりの時」が面白いと思った方はよろしかったら投票してください。
wandering networkに参加しています

ネット小説ランキング>現代FTシリアス部門>「 きっと最善な終わりの時」に投票

「この作品」が気に入ったらクリックして「ネット小説ランキングに投票する」を押し、
投票してください。(月1回)

 

 ご意見はここ

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送